シルクスクリーンについて

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●シルクスクリーンとは


私たちの周りには、たくさんの印刷物があります。印刷や出版の印刷方法には、凸版(活版印刷)、平版(オフセット印刷、リトグラフ)凹版(グラビア印刷)があります。これ以外に孔版(シルクスクリーン印刷)という印刷方法があります。


スクリーン印刷は、フレーム(金属や木製)に繊維を強く張り、隠ぺい部分と孔のあいた部分をつくり、版上の孔からインクや絵具を穴の上から下に通し、印刷体に画像を再現する技法です。凸版、平版、凹版では版上と図柄が逆向きになりますが、孔版では見たままの正体になります。謄写版印刷(軽印刷)、スクリーン擦染などと同じ孔版印刷の仲間です。


美術分野ではシルク、またはセリグラフ(「セリ」はラテン語で「繭」・「繊維」の意)と呼ばれています。正式にはシルクスクリーン・プロセス(プリンティング)と言います。日本で擦染用の版に絹糸などが使われていたことから「シルクスクリーン」という名前で呼ばれるようになりましたが、現在は安価で作業効率のよい化学繊維(テトロンやナイロンなど)が主に使用されています。


●シルクスクリーンの歴史


シルクスクリーンの原点はステンシル技法です。ステンシル技法とは、孔のあいた型紙を作り、筆、刷毛、スポンジ、ブラシなどを使って、上からで絵具やインクを塗り、文字や絵を写していく技法で、原理的にはシルクスクリーンと親子関係にあるといます。原始時代の洞窟壁画に使われている繰り返しの紋様装飾は、ステンシル技法が使われています。また、ローマ時代の遺物にも同じようなものがみられます。日本でも8世紀後半に白子型紙として使われていました。フィジー諸島では古代から、バナナの皮をステンシルの版として使用して植物染料を樹皮に擦り込む技術を持っていたようです。


中世では、仏陀の教義の装飾に摺仏というステンシルが使用されていました。ステンシル技法は、宗教の伝達法として16世紀にヨーロッパに広まって技術として確立し、17世紀にはイギリスで壁紙の製作に、18世紀にはフランスで壁紙のプリント技術として使用されました。


継目のないスクリーン印刷としてのステンシルは、日本では染色技術として開発され、1870年代ドイツ、フランスでは紗が実験的に開発されました。第1次世界大戦後のアメリカにチェーン・ストア・ショップが出現しました。たくさんの販売店のイメージを共有する考え方が生まれ、同じデザインを繰り返し使うことによる販売効果による需要から、POPや看板を複製するために、ディスプレー業者の間でこの技術が発達しました。さらに1930年代のアメリカでは、不況対策事業WPA(公共事業促進局)の連邦美術計画の一環として、高価なオリジナルに代わるスクリーン印刷によるアートプリントの開発に印刷業者とアーティストが携わりました。1938年、ニューヨーク現代美術画廊でガン・マッコイが最初のシルクスクリーンによる展覧会を開催し、その後多数のアーティストが展覧会を行いました。そして、フィラデルフィア美術館の館長カール・ツィグロッサーが商業印刷とアートとの区別をするため「セリグラフィー」と命名、アートとしてのシルクスクリーンが明確化されるようになりました。


やがてシルクスクリーン印刷技術が進歩して、写真による製版が可能になります。1960年頃、アメリカで、ポップアートが出現します。シルクスクリーンのアッセンブリーな表現技術は、このアートスタイルに使用されることになりました。グラフィックデザインの世界ではスクリーン印刷を使ったポスターがさかんに制作されるようになります。


●シルクスクリーンの応用と多様性


セリグラフ技法は、1907年サミュエル・シモンが特許権を得てからイギリス、アメリカに広まり、スクリーン印刷の持っている技術的側面での合理化、工業化、マスプロ化が行われるようになりました。インクが転写ではなく、透過によって固定されるという特性から、従来の印刷が困難であった材質、形態への印刷が可能になり、1920年代にはガラス用セリグラフの印刷が行われるようになります。


1940年代、第2次世界大戦の戦場でプリント回線による無線通話機が初めて使用されました。アメリカは、軍需産業分野においてそれまで大きく、重かった無線通信機を小型にするために、プリント回路の研究がすすめられ、限定された小さなスペースに電気回路を配線するためのコンパクトな電子装置が求められていました。数多くの製品を合理的に生産するためとても有効だったのです。プリント回線は、より高精度なスクリーン印刷技術が求められました。そこで、従来使用されていた膠やゼラチンに変わり、ポリビニールアルコールやアセテートなどを使った乳剤が開発されました。電子回路の集積化が進むとともに、工業分野ではスクリーン印刷の技術が発展し、その後さらに極度に高い精度の電子回路を作る写真製版セリグラフ技術、現在では電荷色粒子を磁場の引力で印刷するゼログラフ印刷が利用されています。シルクスクリーンは工業製品の高精度化とともに開発されてきました。今日、ロケットから家電、コンピュータに至るまで、この技術が応用されています。


スクリーン印刷には、紙、プラスチック、金属、布、ガラス、皮など印刷体の各種素材に対応する多くのインクがあります。空気や水以外、フィルム状のものから複雑な成型品まで、厚さ、大きさ、平面、曲面、凸凹などを問わず、ほとんどの形状のものに対応しています。たとえば、道路標識、遊園地のサインボードや案内標識、ポスター、店舗の看板、バナー、垂れ幕、旗、Tシャツ、プレミアム商品、カップやソーサーの絵、ビール瓶、清涼飲料水の容器、牛乳瓶、化粧品、飛行機、自動車の計器、温度計の目盛り、カーテン、壁紙、新建材、CD(-ROM)の板面もシルクスクリーンで刷られており、スクリーン印刷は多様に展開していています。



新しいシルクスクリーン入門 多摩美術大学校友会編 / 誠文堂新光社刊   2001年3月1日 発行 より」

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